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北の地に宿るなにか [本]

「起終点駅(ターミナル)」は桜木紫乃さんの2012年の作品。この後の「ホテルローヤル」で直木賞を受賞するが、その直前の時期に書かれた6つのお話の入った短編集。表題作「起終点駅」はこの秋に映画化された。

舞台は著者の地元である北海道。一つだけ前の話の主人公を再登場させたもの(「たたかいにやぶれて咲けよ」)があるが、基本はそれぞれ別の話の6編。雰囲気は皆似ていて、鬱屈した閉塞感の中で主人公が悩み、考え、行動する様を描いている。舞台が北海道であることもあって、佐藤泰志さんの「そこのみにて光輝く」に通じるものもある。

起終点駅(ターミナル) (小学館文庫)

起終点駅(ターミナル) (小学館文庫)

  • 作者: 桜木 紫乃
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/03/06
  • メディア: 文庫



起終点駅(ターミナル)

起終点駅(ターミナル)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/03/11
  • メディア: Kindle版



かたちないもの

営業のエリートとして将来を嘱望されていた竹原。仕事もプライベートも何不自由無い生活だったが、ある日突然会社を辞めて実家のある北海道に戻った。交際していながらそれを黙って見送るしかなかった真理子。そして10年後。久しぶりに彼の名前を見たのは納骨式の案内だった。

真理子は知らせをくれた若い神父と話をしながら徐々に空白の10年を埋めていく。そして、残された時間に限りがあると知りながら真理子と付き合い、真理子を東京に置いていった竹原の真意を知る。

最終的に別れなければならなかった二人にとってこれが最善の別れ方だったのか、それはわからないけど、それ以外の方法はなかったのではないかという必然性も感じる。

本題とあまり関係ないが、気にかかった一節があったので引用。

相性は良かった。食べ物の好みも好きな映画も、手にする本も共有できた。だからこそ、と当時は思った。だからこそ、この人と添うことはないだろう。竹原とは週に一度か二度、少ない時間を共有することで保たれているバランスがあった。趣味も思考も似た人間が同じ家で暮らす苦痛があることは、ひとつ前の恋で知った。男は自分と似たような女とは暮らせない。女も同じだ。


あと、白石一文さんの小説を彷彿とさせるのはやはり他人の空似か。

海鳥の行方

新聞社の釧路支店に配属されて二年目の山岸里和。上司からはひどい仕打ちを受けながらもたくましく仕事に励む。ある日、取材に訪れた港の防波堤の最先端で釣りをしていた石崎という男と知り合う。家族を失ったひとり暮らしの男。

わけがあって石崎の元妻のところに取材に向かう。地元の理容室を一人で切り盛りする元妻。記事にするためには、新聞記者であることを名乗り、元夫のことを語ってもらわなければならない。だが、里和はどうしてもそれを切り出せなかった。帰り際の最後のチャンスも逃したが、それにより何かの為に他の何かを諦めたように見える。

起終点駅(ターミナル)

釧路で法律事務所を続けてきた鷲田完治。ある出来事をきっかけに妻子と別れ、以来ひとりでやって来た。長く続けてきた養育費の支払いも終り、息子は自分と同じ道に進んでいるという。そんなある日、覚せい剤使用の容疑で起訴された女の弁護をすることになった。椎名敦子、30歳。執行猶予付きの判決が確定後、彼女は鷲田の元を訪れ、新たな事実を告げる。

完治が国選弁護のみを引き受け頑なに独り身を通してきた理由は途中で明かされるが、結局はこの男が引き寄せた結果なんだろうなと思う。

黒々とした深い穴に落ちてゆくような快楽のなかで、妙に安堵していた。こらまで手に入れてきた幸福が、自分にとって過ぎたるものだったことをやっと自覚できた。詰め放題の袋が、破れた。


幸せ恐怖症と堕落願望。幸福を強く望むが故の反動とも言えるが、再会した元恋人の冴子は二度そこから逃げ、そして彼自身もそれを誘引している。

あと、本題からはすこし外れるが、一人で持て余す時間を埋める趣味にもなっている料理。ザンギ、生の筋子から作るイクラ、棒々鶏、水菜とチーズリゾット、マカロニサラダなどなど。北海道ならではのメニューも交えながら、この物語に色を添えていると思う。

スクラップ・ロード

粗大ごみを漁る違法なトラック。その運転席から現れたのは、中学の時に家を出て行った父親だった。同乗の女に促されるままにトラックに飛び乗り、そのまま二人が住む小屋までついていった。廃品の中で寝泊まりする生活。ろくに食べるものもないひどい状況だが、主人公の久彦は自らも職を失い、それほど違う状況ではないことに気がつく。そして何よりも、そんな生活に引き寄せられる自分も居た。

そして過去に付き合ったことのある女、香津美。ひどい書かれようなのだが、このキャラ設定に少し目を引かれた。資産も家柄も大したことないのに、高級住宅街に住み著名人との交流があることを自慢する両親に育てられた娘。中途半端にプライドの高い女だが、そんなところを逆に好ましいと感じていた。

妻にするなら、このくらい高慢ちきで厚かましい女がいいだろうと思った。プライドのない女は困る。俺の妻になるからには、夫婦の難題がでてきたとき、気持ちより肩書きを取るような神経がなければ。


久しぶりにあった香津美は少し変わったように見えたが、でも本質はなかなか変わらない。そしてそれは二人を助く。

たたかいにやぶれて咲けよ

海鳥の行方ででてきた山岸里和が再び主人公。以前、記事にしようとして取材した中田ミツの訃報を受け取った所から物語は始まる。実際には記事にはできなかったのだが、それをインタビュー中に感づかれ、「わたしが死んだあとなら記事にできる」と言われたことが気になっていた。生涯独身を貫いたミツ。その唯一の肉親である姪の昌子から家族で複雑な事情があったという話を聞き、そしてさらにミツが晩年に5年間一緒に暮らした男の存在を知る。

「恋多き歌人」と称され、常にフリーにやりたいように生きてきたミツ。自分でもそう言いながら、どこか装っているところがあったと姪は言う。隠遁して若い男と暮らした5年間がもっとも自分らしく生きられた時間だったのかも知れないなと思う。周りからの誹謗中傷を笑い飛ばし、あちこちを旅行して、そして自分の追えなかった夢を彼に密かに託す。

喫茶店をミツから引き継いだ姪の昌子が語った一言。

「ひとがそれぞれの想いを守り合うと、もめごとなんか起きないの。あの三人から、わたしはそういうことを学んだと思います」

この短編集の中ではこの話が一番好きかもしれない。映画化するなら是非これを取り上げて欲しかった。キャスティングは難しいかもしれないけど。

潮風の家

弟の事件をキッカケに家をでた千鶴子。30年ぶりに帰って来た。肉親は既にこの世を去っており、唯一の知人たみ子を訪ねる。24歳の時に町を離れることを助言してくれたのがこのたみ子である。二人枕を並べ、必ずしも平坦ではない「売れるもんみんな売って生きてきた」過去をお互いに振り返る。

最後、若いころに家族から離れて働いていた頃のたみ子が書いた詩が紹介される。どこにいようとも、どんな仕事をしていようとも、人はそれぞれ自分の思う人のことを思い、その幸せを祈るものなのだと思う。
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