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釧路の湿原を望む高台の上から [本]

桜木紫乃さんの第149回(2013年上期)直木賞受賞作。釧路の大湿原を望む高台に建つラブホテル「ホテルローヤル」にまつわる短編が7つ。それぞれの話は微妙に繋がりがありながら、30年に渡るホテル営業の様々な時期のエピソードが順不同で、むしろ遡る感じで並べられている。それぞれの主人公はそれぞれ違った思いを持ってホテルの部屋に入る。そして必ずしも一致しない男の思いと女の思い。


ホテルローヤル (集英社文庫)

ホテルローヤル (集英社文庫)

  • 作者: 桜木 紫乃
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/06/25
  • メディア: 文庫



ホテルローヤル (集英社文庫)

ホテルローヤル (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/06/30
  • メディア: Kindle版

いつものように一篇ずつ、サマリとひと言コメント。

シャッターチャンス

スーパーの事務を勤める美幸とその中学の時の同級生、貴史。彼は当時からアイスホッケーをやっていて「氷神」と呼ばれ実業団の選手にもなったが、怪我が理由で引退を余儀なくされた。30を越えてから再会した二人が互いに求めるものは微妙にずれている。女は男の過去の栄光とその挫折を愛おしいと感じ、男は女にやっと見つけた新たな目標に対するサポートを期待する。廃墟となったホテルの部屋で時を過ごし、帰りのクルマの中で漠然とした不安が徐々に形になっていく様が秀逸。

本日開店

檀家からのお布施でなんとか生計を立てている観楽寺。その見返りとして体を提供することが寺に嫁に来てからの幹子の務めとなっていた。住職のあずかり知らぬところで。そうしているうちに、佐野家の主人が亡くなり檀家総代の役割と共にその慣習も息子に受け渡される。「まいったなぁ」と戸惑いながらも息子はそれを引き継ぎ、そして幹子はこれまでの「奉仕」以上のものに気が付いてしまう。腹の奥に溜まっていた余韻。

えっち屋

ラブホテルを営む夫婦の間に生れた雅代。母は10年前に出て行き、70を超えた父は入院中。心中事件があってから閑古鳥のなくホテルは昨日営業を終えた。高校を出てからのこれまでの10年間、殆んどの時間をこの事務室で過ごしてきた。明日ここを出て行くが何処に行くかは決めていない。そんな時、在庫となったアダルトグッズを引き取りに来た宮川に対して、旅立ちを祝うための提案を行う。「ご褒美」はどんなのだったんだろ。

バブルバス

狭い賃貸アパートに住む真一と恵の夫婦。舅が同居してからますます居場所がなくなった。二人の子供を抱え生活も苦しい。そんな二人が法事に出かけるが、思いがけず手許に5,000円が残った。それを手に「ホテルローヤル」に立ち寄る。すべて泡の下のできごと。そんな泡のような2時間を思いながら日々をまた懸命に生きる。これはこの短編集の中で一番好きな話かもしれない。

せんせぇ

野島は単身赴任中の教師。妻の里沙には伝えないまま、3連休に自宅に戻るために列車に乗る。思いがけずその隣に乗り込んできた教え子の佐倉。話を聞くと自分をおいて両親ともバラバラに夜逃げしたという。自宅近くである程度想定していたモノを見てしまい、一夜を明かした後、そのまま道東への片道切符を買う。二枚分。「ホテルローヤル」は出てこないけど、この前に語られていた出来事へ続くことがわかる。長く浮遊していた心の着地点。

星を見ていた

ホテルローヤルの掃除婦ミコさん。60になったが少しでも稼ぎたいので朝の9時から夜まで働く。子供も3人居たが皆独立して今は10歳年下の夫と二人暮らし。夫は漁師だったが怪我を理由に船を降り、今は仕事をせずに毎日家でミコの帰りを待つ。この夫とミコの毎日の営み。亡くなった母親に昔教えられた言葉を胸に務めを果たすミコだが、次男の関わる事件をきっかけにふとその日常から外れる。体の内側に続く暗い一本道。

ギフト

看板屋を営む大吉。従業員は経理を担当する妻だけ。ほそぼそと商売を続けることに飽き、一山あて皆を見返したい大吉の下にラブホテル経営の話が舞い込む。夢を追って男になりたい男に賛同できず、女房は離れていく。そして年の離れた愛人に子供が出来たことをキッカケに男は決心する。その後の30年間は思い描いた30年ではなかったと思うが、それでもするべき正しい決断だったと思う。「ホテルローヤル」の看板が見て来た様々な人の思いのスタートがここにあった。
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